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懇談会報告(平成8年4月)

4 新しい施策の展開

(1)新しい施策の基本的考え方
アイヌの人々をめぐる歴史的経緯、特に明治期以降の近代化と「北海道開拓」の過程における歴史的経緯に照らし、先住していたアイヌの人々の固有の事情に立脚した新たな展開が可能となる施策とすべきである。
ウタリ対策の新たな展開の基本理念は、今日存立の危機にあるアイヌ語やアイヌ伝統文化の保存振興及びアイヌの人々に対する理解の促進を通じ、アイヌの人々の民族的な誇りが尊重される社会の実現と国民文化の一層の発展に資することであり、この基本理念と関係施策の具体性との調和を図ることが必要である。なお、この基本理念に基づくウタリ対策の新たな展開は、過去の補償又は賠償という観点から行うのではなく、アイヌの人々の置かれている現状を踏まえ、これからの我が国のあり方を志向して、少数者の尊厳を尊重し差別のない多様で豊かな文化をもつ活力ある社会を目指すものとして考えるべきであろう。
上述したとおり、ウタリ対策の新たな展開は、今日存立の危機にあるアイヌ語やアイヌ伝統文化の保存振興及びアイヌの人々に対する理解の促進を主要なテーマとして実施されるべきである。また、その施策の対象については、北海道に居住しているか否かにかかわらず、アイヌ伝統文化等の保存振興活動をする者の支援を行うと同時に、アイヌに関する研究の推進、国民一般の理解の促進等を図るなど幅広い範囲を念頭に置くべきである。こうした施策の実施に当たっては、国と地方公共団体の密接な連携による対応が重要である。
ウタリ対策の新たな展開に当たって留意すべきは、アイヌの人々一人一人は様々な生活の道を選択しているという状況があることであり、これらの者を本人の意思にかかわらず、一律に施策の対象とすることは避けるべさである。また、戸籍その他の行政分野や個人を対象とする施策において、アイヌの人々を個々に認定する手続きを設けたり、そのための認定基準や定義を設けることは困難であり、その実施に伴うデメリットを考慮すれば、個人認定を要する施策の新規導入は慎重に考えるべきである。
ウタリ対策の新たな展開に当たっては、そのための具体的新規施策の検討が必要であるが、現行の第四次北海道ウタリ福祉対策については、継続実施の方向で検討を進めるべきである。
近年に至る歴史的経緯の中で関係者の要望を踏まえ、行政施策でもアイヌという呼称をあえてウタリ(=同胞)とすることを選択してきたところであるが、民族的な誇りの尊重という基本理念に基づく新たな関係施策を展開するに当たっては、むしろアイヌという呼称を統一的に用いることが適当である。
以上述べてきたところを基本的な考え方とする新しい施策の展開は、関係者の間にあるいわゆる「先住権」をめぐる様々な要望に、今日我が国として、具体的に応える道であると信じるものである。