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懇談会報告(平成8年4月)

4 新しい施策の展開

(2)新しい施策の概要(提言)
新しい施策の基本理念は、上述のとおり、アイヌ語やアイヌ伝統文化の保存振興及びアイヌの人々に対する理解の促進を通じ、アイヌの人々の民族的な誇りが尊重される社会の実現と国民文化の一層の発展に資することである。
しかしながら、アイヌの人々の民族としての帰属意識は脈々と受け継がれているものの、そのアイデンティティの基盤ともいうべき言語、伝統文化等は、歴史的経緯の中で失われたものも多く、十分な保存、伝承が図られているとは言い難い状況にある。
また、アイヌの人々の民族としての歴史や伝統、現状が国民一般に正しく理解されているとはいえない。
このような観点に照らし、新しい施策は、1.アイヌに関する総合的かつ実践的な研究の推進、2.アイヌ語をも含むアイヌ文化の振興、3.伝統的生活空間の再生、4.理解の促進を柱に展開すべきものと考える。

  1. アイヌに関する総合的かつ実践的な研究の推進
    アイヌに関する総合的かつ実践的な研究を推進し、その充実を図ることが必要であり、特にその研究拠点としての北海道の役割を高めることが重要である。また、民族学、法律学、社会学、考古学、歴史学、言語学等の様々な領域から純粋な学術研究という立場を超えたアイヌに関する総合的かつ実践的な研究体制の整備を図るため、国家的観点に立って拠点となる研究組織を北海道内に設置することが求められる。このため、北海道内において、調査研究の主体となるとともに、共同研究の推進、研究者の育成、資料の収集保存等を行うアイヌ研究推進センター(仮称)の設置を図ることが必要であると考えられる。
    また、アイヌの人々の中から研究者が養成されるよう配慮しつつ、研究奨励金の支給等を通じて若手研究者の養成や支援を行うことが望まれる。加えて、高等教育機関等の理解を得つつ、アイヌに関する教育機会の充実を図ることが重要である。
  2. アイヌ語をも含むアイヌ文化の振興
    第一に、独自の言語であり、民族としてのアイデンティティの中核をなすアイヌ語の置かれている現状にかんがみ、速やかに所要の施策を講じる必要がある。
    具体的には、アイヌ語教育の充実のためには指導者等の育成が重要であり、常設のアイヌ語講座を設置し、アイヌ語の入門から指導者の育成が可能なレベルまでの体系的なアイヌ語教育を行うこと、また、指導者の研修、教材の開発を行うことが望まれる。あわせて、高等教育機関等における自主的取組みの支援、現在既にあるアイヌ語教室の充実も重要である。 また、アイヌ語を一般の人々に広く普及するという観点からは、テレビ、ラジオ等でのアイヌ語番組を提供することや、アイヌ語による弁論大会の開催などが考えられてよいであろう。
    第二に、民族のアイデンティティにかかわるアイヌ文化の再生、創造、伝承を図るために速やかに所要の施策を講じる必要がある。
    まず、アイヌ文化の振興施策の円滑な実施のためには、必要な調査を充実強化することが必要不可欠である。その上で、文化活動・伝承活動の支援として失われた技術の復元、再生を中心として、技術の保存に努めるとともに、優れた伝統技能を生かした民芸品等の展示会の拡充を図ること、また、古式舞踊や音楽などの伝統芸能について、会議、イベント等の活用など発表の場を確保すること、ユーカラ等の優れた口誦文芸について、その採取、翻訳、整理を進めること、伝統文化の保存のため記録による再現が行えるようなレベルの映像記録及び解説書を作成し、技能の伝承を図ることなどが求められていると考えられる。
    さらに、国内外での文化、民族交流等について支援を行うことや、アイヌ文化の振興、理解の促進を図るために、アイヌ文化を総合的に発表する場を確保するとともに、優れた芸術作品の表彰、また、アイヌ文化の向上発展に関し特に功績のあった者を顕彰することなどが検討されるべきである。
    これらについては、既に現行の文化財保護等に係る各般の施策において一部取り込まれてきたものもあるが、新たな展開に当たり、特別の施策として取り組むべきものを適切に選択して対応すべきであろう。
    また、こうした施策の展開に当たり、アイヌの人々の自主性を尊重しその意向を十分に反映しつつ、アイヌ文化の振興等を行うことが大切であり、アイヌ文化振興基金(仮称)を設け、活用することも有効な手立てではないかと考えられる。
  3. 伝統的生活空間の再生
    アイヌ文化を総合的に伝承するため、アイヌの伝統的な生活の場(イオル)の再生をイメージし、様々な展示施設等を盛り込んだ空間を公園等として整備することが望まれる。なお、その整備及び管理に当たっては、地元の意向と取組みを重視し、尊重することが大切である。
    この空間には、自然と共生するアイヌの人々の知恵を生かした体験や交流の場、アイヌの人々の自然観に根差した工芸技術の伝承の場等を整備するとともに、その中での伝統工芸の材料の確保等が一定のルールの下に自由に行えるよう所要の配慮を行うことも検討されるべきである。
    特に、以上1~3は三位一体ともいうべきものであり、これらの諸施策の具体化に当たっては、有機的連携を確保発展させることのできる実施体制が求められる。
    このため、上述の総合的かつ実践的な研究の推進とアイヌ文化振興に関する事業を実施し、伝統的な生活の場(イオル)の再生をイメージした公園等の管理の一端を担う形で、この3部門を総合的に実施・推進する組織を設けること、具体的には国及び地方公共団体による財政的支援を前提とし、特定の業務を行うものとして国の指定を受ける「アイヌ文化振興・研究推進機構」(仮称)を設けることを検討すべきものと考える。上述のアイヌ研究推進センター(仮称)やアイヌ文化振興基金(仮称)もこの機構の中に設けること、及びアイヌの人々の自主性が尊重される運営のあり方が検討されるべきであろう。
  4. 理解の促進
    昨年12月、我が国も「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約(平成7年条約第26号)」を締結したところである。アイヌの人々に係る諸施策の新たな展開に当たっても、人権擁護に資する活動の一層の推進への配慮が望まれる。そのような観点から、アイヌ文化を含めアイヌに関する知識や教育の普及・充実を通じて、アイヌの人々やアイヌ文化についての理解の促進を図ることが極めて重要であると考えられる。そのためには、教員の養成・研修から学校教育の現場に至る流れの中で活用しうる教材等の作成、配布が望まれる。さらに、上述の「アイヌ文化振興・研究推進機構」(仮称)も、その業務の中で、理解の促進に資する活動を積極的に行うべきであり、人権擁護機関においても啓発活動等の一層の充実が期待される。